はじめに
こちらは、解散直後の株式会社が、会社名義の不動産を代物弁済で所有権移転するタイミングについて、実際の対応事例を基に解説する記事です。
どちらかというとプロ(同業者)向けの内容です。
よって、基礎的な説明は省略している部分があります。
事件概要
廃業を検討している株式会社からのご依頼です。
会社を畳むことにしたので、その際、会社名義の収益物件を一人株主兼代表取締役の名義に変更し、その代表取締役から会社に対する役員貸付金を清算したいとのご希望でした。
役員貸付金は会社にとっての負債なので、その負債を金銭の代わりに会社名義の不動産で支払う=代物弁済で所有権移転する方法を提案し、依頼者の方にご承諾いただけました。
私の依頼事項としては、次の内容です。
①解散・清算人選任の登記
②官報公告(解散・債権申出)の代行
③代物弁済を原因とする所有権移転登記
④清算結了の登記
特に④の部分については、顧問税理士の方と連携しながら進めていきました。
論点整理(所有権移転)
論点
今回の所有権移転登記には、次の論点がありました。
・解散登記後、解散・債権申出の官報公告するまでの間に、代物弁済を登記原因として所有権移転できるか?
債務弁済の制限
清算会社は、債権申出期間中(最低2か月)は、債務の弁済をすることができません。
会社法 第500条第1項
清算株式会社は、前条第1項の期間内は、債務の弁済をすることができない。この場合において、清算株式会社は、その債務の不履行によって生じた責任を免れることができない。
会社法 第499条第1項
清算株式会社は、第475条各号に掲げる場合に該当することとなった後、遅滞なく、当該清算株式会社の債権者に対し、一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、二箇月を下ることができない。
代物弁済も債務の弁済に相当するので、期間中は代物弁済を原因として所有権移転することはできません。所有権移転の効力が発生していないので、登記もできないことになります。
官報公告のタイムラグ
解散・債権申出の公告をするには、掲載の申込みが必要です。
登記所が解散登記をしたら、自動的に公告されるわけではありません。
そして、申込みから掲載までには一定期間必要です。※この原稿の執筆時点では申込みから15営業日後に掲載予定
このケースでは、解散日に掲載の申込みをしたので、解散登記が完了してから、解散・債権申出の公告がされるまでに数日の余裕があったと記憶しています。
官報公告が掲載される前なら、代物弁済による所有権移転登記ができるでしょうか?
会社法の条文をそのまま読めばできそうに思えます。
しかし、この制度の本旨は、債権者に対して平等に債務を弁済する機会を与えることにあります。
一部の債権者に対してだけ先行して弁済するのは制度の本旨に反するからできないのではないか?
どうにも判断付きかねたので、管轄登記所に相談票を出すことにしてみました。
事前相談した結果は・・・
今回対象の不動産の登記管轄は、同じ県内のA支局とB出張所の2つありました。
それぞれの登記所に相談票を出したところ・・・
なんと、A支局はできる、B出張所はできないという回答がされました。
同じ法務局管内なのに全く違う回答、これは困りました。
実際の対応
そこで、もう一度よくよく検討したところ、
『代物弁済の相手方である代表取締役は知れている債権者に該当し、その債権者に各別の催告をしたからこそ、代物弁済により所有権移転するという合意に至った。つまり、既に債権申出期間に入っているのだから、官報公告前でも代物弁済による所有権移転はできない。』
との結論に至りました。
依頼者に上記を説明したうえで、債権申出期間(2か月)が経過した後の日付で、所有権移転登記することにしました。
最後に
『【対応事例】解散直後の会社が代物弁済で所有権移転する原因日付』いかがでしたか?
もし、一般の方がこの記事を読んで、ご自身で解散するための手続きのスケジューリングをするのに不安を感じた場合は、私にご相談いただければと存じます。
この記事が何かの参考になったのならば幸いです。最後までお読みいただきありがとうございました。
執筆者 司法書士・行政書士 木戸瑛治